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【書評】『火花』著者:又吉直樹

芥川賞を受賞された又吉直樹さんの『火花』を読みました。

私はほとんど小説を読んだ事がなかったので、この作品が文学としてどう評価したら良いのかなどは全然分かりませんが、読んだ感想としては、かなり面白かったと思います。

火花

火花

 

純粋に漫才を愛する、師弟関係の漫才師の二人(コンビは別)を通して、日々、起きる葛藤に、とてもリアリティを感じました。

私が印象的だったシーンをいくつかご紹介します。

シーン1:主人公の漫才の師匠である神谷が、ネットで悪口を書かれることについて語ったシーン。

ネットでな、他人のこと人間の屑みたいに書く奴いっぱいおるやん。作品とか発言に対する正当な批評やったら、しゃあないやん。それでも食らったらしんどいけどな。その矛先が自分に向けられたら痛いよな。まだ殴られたほうがましやん。

~中略~

だけどな、それがそいつの、その夜、生き延びるための唯一の方法なんやったら、やったらいいと思うねん。俺の人格も人間性も否定して侵害したらいいと思うねん。きついけど、耐えるわ。

~中略~

人を傷つける行為ってな、一瞬は溜飲が下がるねん。でも、一瞬だけやねん。そこに安住している間は、自分の状況はいいように変化することはないやん。他を落とすことによって、今の自分で安心するという、やり方やからな。その間、ずっと自分が成長する機会を失い続けてると思うねん。

これは真理かもしれません。私もよく考える事があるのですが、私達はとにかく誰かに承認されたい。だから、ほとんど無意識に自分の価値を高めることを行っているのだと思います。

実際に実力を付けるのが良いと言うのは誰もが分かっている事だとは思いますが、自信がない時は、つい手軽に誰かへの批判をしてしまいたい気持ちになる。それは偉い人や有名人であるほど良い。言うまでもなく下劣な行為です。相対的に自分の価値が上がったと錯覚しているだけです。

でも、その気持ちも、分かるのです。生きていれば自信を喪失して誰かに八つ当たりしたくなる日もあるもの。神谷は、その人が、その夜生き延びる為の唯一の方法であるなら構わないという独自の考えを持っていました。

 

シーン2:神谷を養ってくれていた居候先の真樹(実は風俗で働いていた)が、神谷と別れ、風俗で出会った男性と両思いになり新しい道を進むシーン。

それから、真樹さんとは何年も会うことはなかった。その後、一度だけ井の頭公園で真樹さんが少年と手をつなぎ歩いているのを見た。僕は思わず隠れてしまった。真樹さんは少しふっくらしていたが、当時の面影を十分に残していて本当に美しかった。圧倒的な笑顔を、皆を幸せにする笑顔を浮かべていて、本当に美しかった。

~中略~

誰が何と言おうと、僕は真樹さんの人生を肯定する。僕のような男に、何かを決定する権限などないのだけど、これだけは、認めて欲しい。真樹さんの人生は美しい。あの頃、満身創痍で泥だらけだった僕達に対して、やっぱり満身創痍で、全力で微笑んでくれた。そんな真樹さんから美しさを剥がせる者は絶対にいない。真樹さんに手を引かれる、あの少年は世界で最も幸せになる。真樹さんの笑顔を一番近くで見続けられるのだから。

人としての美しさや価値とは何でしょうか。現代は、年収や地位などが重視されすぎてはいませんでしょうか?職業で人の価値が決まってしまうのでしょうか。

どんな職業でも、人としての価値が高い人と、そうではない人がいると思います。

確かに現代では風俗嬢のイメージは良いものではありませんが、それでも主人公が、人としての心の優しさを持った真樹さんの人生を肯定するシーンはとても良かったです。

 

『火花』には、理不尽な世の中にある、純粋で優しい世界観を感じました。読みやすく、おすすめです。